【進出事例】2020年11月
PUMA
アジアでの製造における安定した基盤
アン・ロール・デスクール(Anne-Laure Descours)
Chief Sourcing Officer
PUMA
多くの消費財の製造が今後も当面の間はアジアで行われるなか、同地域でネットワーク展開するサプライチェーンを統括管理するためにベストな都市として香港は全ての条件が整っていると、ドイツのスポーツウェアブランド「PUMA」のチーフ・ソーシング・オフィサーであるアン・ロール・デスクール氏は話す。
フットウェアやアパレルを販売するブランドにとって、香港の魅力は現地のノウハウにあるとした上で、同氏は次のように述べる。「欧州や北米に比べて低コストだからというだけではありません。香港には十分な専門知識があります。スピードと効率性にも優れています。」
その上で、PUMAのような大企業はジレンマを抱えているとも語る。大企業は、戦略的意思決定の機能を本国(その多くはアジア以外)の本社に集中させるという時期を経たのち、製造に関する知識を中心とした製品知識は、今や製造現場にあるということに気付いたのだ。
さらに、欧州や米国での「本国近隣でのソーシング」という動きがすぐに本格的に実現する可能性は低く、アジアが主要なソーシング地であることは変わらないため、同氏はそのマネジメントもアジア地域内で行われるのがベストだと考える。
PUMAの解決策はソーシングの本部機能を香港に移管するというものだった。同氏は次のように言う。「私たちの業界ではいまだに、ソーシングに関連する意思決定については本社中心に考えている多国籍企業が多いのが現状です。6年前、当社は製造の拠点がアジアにあることから、ソーシングの幹部チームも工場の近くに拠点を置くべきだと考えました。」
フランス人のデスクール氏は、Li & FungやOtto Internationalなど業界大手企業での経験を含め、30年近くにおよぶソーシングのキャリアを持つ。2012年にPUMAに入社し、同社のアパレルとアクセサリー部門のグローバル・ソーシングを統括。その後、2019年に同社のチーフ・ソーシング・オフィサーに就任した。
「ソーシングの意思決定は、かつては本社を中心に行われていました。しかし、本社ではデザインとマーケティングに重きが置かれるにつれ、技術的な製品知識や製造知識が大きく失われていきました」と同氏は述べる。
アジア既存の優位性
製造に関する最新知識はアジアにあり、欧州や米国はそれに劣ることから、ブランドと製造企業間の協業が今後ますます重要性を増してくるであろうとデスクール氏は指摘し、次のように述べる。「PUMAでは、アジアでのプレゼンス強化が重要だと考えました。」
この戦略転換の結果、アジア全体で25社の主要製造パートナーを擁する統合型サプライチェーンが構築できた。このサプライチェーンは同社製品全体の85%の製造を担っている。
またPUMAは、中国本土とその他のアジア地域内での製造において、円滑にバランスをとることに成功した。しかし、主に中国市場向けの製造を行っているため、中国でも相当のプレゼンスがあることには変わりない。
今後について同氏は、スポーツアパレルおよびフットウェアのアジアでの生産は強化されるだろうと見ている。「製造に関する優秀な人材はベトナム、バングラディシュやその他アジアの各地にいます。つまり、アジアではさらに優れた技術が現在も開発されているということです。」
香港以外では、インドも優秀な人材を有するため、今後さらに重要な役割を果たすことになり、またシンガポールもITにおける強みを生かしていくことができるだろうと、同氏は見ている。
しかし、サプライチェーンの統括管理に関しては香港がベストだと同氏は話す。「香港の人々の柔軟性と適応力の高さは、香港の効率性の高さの主な要因です」とデスクール氏は話す。起業家精神にあふれた人材、全体としてのビジネスのしやすさ、そしてアジアの中央に位置するというそのロケーション等により、香港が理想的なハブになっているとも指摘する。
更に、新型コロナウイルス危機にみまわれた際、製造現場に近いということがPUMAにとってプラスに働いたと同氏は言う。需要が減退するにしたがって、製造知識が小売販売側と統合されていない場合にどのような問題が起こりうるのかについて、ますます明らかになってきたのである。
「ブランドを中心に事業展開する企業は、その問題におけるサプライチェーンの側面を理解することが難しいため、苦労していました」とデスクール氏は指摘する。PUMAにとっては、「アジアに拠点を置く構造が大きなメリットとなりました」とインタビューを締め括った。
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